第一日

コンテキスト

LilyPondの更なる利用のために、ここでコンテキストという概念について理解しておく必要がある。

LilyPondの楽譜表現は階層構造になっており、あるコンテキストが別のコンテキストを含むという形をとっている。 代表的なコンテキストは ScoreStaffVoice の3つであり、それぞれが出力される楽譜の「楽譜全体」、「譜(1パート分の五線譜)」「声部」に対応している。 Score は1つまたは複数の Staff を含むことができ、 Staff は1つまたは複数の Voice を含むことができる。 以下の図は、コンテキストの階層構造を図示したものである。

TODO

コンテキストは エングラーバ で扱うエングラーバというものをいくつか持ち、それぞれのエングラーバが実際に音楽記号を配置する。 例えば、 Voice コンテキストは Note_heads_engraver と呼ばれるエングラーバを持ち、このエングラーバは符頭を楽譜上に描く。 Score コンテキストは Metronome_mark_engraver というエングラーバを持ち、楽譜全体で共有されるテンポ記号を描く。

コンテキストの生成

コンテキストは \new コマンドで生成する。 \new の後に、生成するコンテキストの種類を与え、必要であればコンテキストの固有名を = と文字列で指定する。 最後に音楽表記を与える。 ただし、 Score コンテキストは \new Score によってではなく、 \score によって生成する。 \score{ } で囲まれた音楽表記やいくつかの特殊なコマンドを取り、TODO \score\book 以外のいかなる子要素になってはならない。TODO

LilyPond: コンテキストの生成
\score {
  <<
    \new Staff {
      \new Voice {
        g'4
      }
    }
    \new Staff = "staff2" {
      \new Voice {
        c'4
      }
    }
  >>
}
\score {
  <<
    \new Staff {
      \new Voice {
        g'4
      }
    }
    \new Staff = "staff2" {
      \new Voice {
        c'4
      }
    }
  >>
}

上の例では、 \score によって Score コンテキストを生成し、 << >> で囲まれた2つの \new Staff により同時に2つの譜を作り出している。 後者の Staff には staff2 という名前が付いており、ソースファイルの別の場所から参照することができる。

コンテキストの暗黙的作成

第一週の種々の例で見てきたように、単純に音楽表記を { } で囲むことで楽譜を生成することができた。 これはLilyPondが内部的にコンテキストを自動生成しているためであり、TODO

LilyPond: 単純な音楽表記
{
  c'4 d' e' f'
}

これは以下のように解釈される。

LilyPond: 暗黙的に作成されるコンテキスト
\book {
  \score {
    \new Staff {
      \new Voice {
        c'4 d' e' f'
      }
    }
    \layout { }
  }
  \paper { }
  \header { }
}

音楽が \new Voice を省略して表記されるとき、暗黙的に Voice コンテキストが作成される。 この表記を囲んでいる Staff が存在しない時、暗黙的に Staff が作成される。 同様に、 \score\layout\book\paper\header が作成されている。

LilyPond: Voice内でのStaff生成
\score {
  \new Staff {
    \new Voice {
      \new Staff {
        c'4
      }
    }
  }
}

上のコードのように、 Voice コンテキスト内で \new Staff を呼び出す時、 VoiceStaff を含むことができないから、 その外部にある Score コンテキストを探し、 Score の子コンテキストとして Staff が作成される。 (もちろん、 \score が存在していない時には暗黙的に作成される。) 結果的に、 Score 内には、 Score の直下にある Staff と、 Voice 内で宣言された Staff の二つが作成されるため、出力は以下のようになる。

LilyPond
\score {
  \new Staff {
    \new Voice {
      \new Staff {
        c'4
      }
    }
  }
}

下段に新しく作成された Staff 内に暗黙的に Voice が作成され、そちらに音符が置かれていることに注意せよ。

多声表記 (2)

多声表記 (1) で、以下のような表記について学習した。

LilyPond: << \\ >> を用いた多声表記
<< { g'4 a' b' c'' } \\ { e'4 f' g' a' } >>

これは \new Voice を用いた以下の表記と同等である。

LilyPond: \new Voice を用いた多声表記
<<
  \new Voice = "1" { \voiceOne g'4 a' b' c'' }
  \new Voice = "2" { \voiceTwo e'4 f' g' a' }
>>

1つの譜の中で複数の声部を保持するために、 Staff コンテキスト内に複数の Voice コンテキストを持たせているというわけである。

TODO: voices

TODO: スパナを繋げる

エングラーバ